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大阪地方裁判所 昭和29年(ワ)4781号 判決 1955年6月22日

原告 浅見祝治

被告 寺川清太郎

主文

被告は原告に対し大阪市東区谷町付近土地区劃整理換地ブロツク第四十六号符合第三号宅地十九坪九合を、その地上にある東向木造トタン葺平家建バラツク倉庫一棟建坪二十坪の建物を収去して明渡し、且つ昭和二十九年七月五日以降右明渡完了に至るまで一ケ月金二千円の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

本判決は仮りに執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は主文第一、二項同旨の判決並に担保を条件とする仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、原告は大阪市東区内本町二丁目二十三番地の一、宅地二十七坪六合一勺を所有していたところ戦後大阪復興特別都市計画事業の施行に伴う土地区劃整理により、右土地の換地予定地として、大阪市東区谷町本町付近土地区劃整理換地ブロツク第四十六号符合第三号宅地十九坪九合の指定を受けた。よつて原告は右換地予定地につき使用収益権を有するものである。しかるに、被告は昭和二十九年六月頃何等の権原なく該宅地上に主文第一項記載の建物を建造所有して原告の右宅地に対する換地予定地指定に基く権利を侵害し、これにより原告は一ケ月金二千円の割合による損害を蒙つている。そこで原告は昭和二十九年七月五日大阪地方裁判所に於て右建物に対する工事続行占有移転禁止の仮処分を得た。よつて被告に対し右建物を収去して右土地を明渡し且昭和二十九年七月五日以降右明渡ずみに至る迄前記損害金の支払を求めるために本訴請求に及んだ。と述べた、<立証省略>

被告訴訟代理人は請求棄却の判決を求め、答弁として原告主張事実のうち被告が原告主張の宅地上にその主張の建物を所有していることは認めるがその余の事実は知らない。それ故原告の本訴請求は失当である。しかし仮りに原告が原告主張のように換地予定地の指定を受けたものとしても、もともと右土地は大阪市東区徳井町二丁目四十一番地の二宅地十七坪二合八勺の宅地で原告はこれを昭和二十一年六月二十五日その所有者であつた訴外佐野美智子、同佐野俊明両名から譲受けたがこれが所有権移転登記手続に関して、右訴外人等との間に争が生じたので原告は同訴外人等に対しその所有権移転登記手続請求の訴を提起すると共に、昭和二十二年四月本件土地に関し、同人等に対する所有権移転その他現状変更禁止の仮処分決定を受けその旨の登記を了したのである。その後大阪市に於ては特別都市計画法に基いて大阪特別都市計画事業を実施し右宅地を含む一帯の土地区劃整理を行つたが、右土地区劃整理に当つては区域内の不動産登記権利者に通告し、その協議を経て補償或は換地処分をしなければならないのに、右土地に対する仮処分権利者である被告には何等の通告もないし、また換地に関する何等の協議も受けていないのである。またその換地予定地の指定の通知も受けていない。従つて、右指定は特別都市計画法、都市計画法、耕地整理法に違反し、而も前記仮処分決定に違反して為されたものであるから当然無効である。仍つて該処分の有効を前提とする原告の本訴請求は失当である。と述べた。<立証省略>

理由

成立に争のない甲第一号証によると、原告は大阪市東区内本町二丁目二十三番地の一、宅地二十七坪六合一勺を所有していたところ、特別都市計画法に基く、大阪特別都市計画事業による土地区劃整理によつて右宅地の換地予定地として原告主張の主文第一項記載の宅地十九坪九合の指定を受けたことが認められこの換地予定地上に被告が主文第一項記載の建物を建築し所有していることは当事者間に争がない。

そこで被告は右換地予定地の指定は無効であると、主張するから、この点について検討するのに、右指定の換地予定地が大阪市東区徳井町二丁目四十一番地の二宅地十七坪二合八勺の土地に該当すること、並に右土地について被告がその主張日時大阪地方裁判所より訴外佐野美智子、同俊明に対する現状変更禁止の仮処分決定を得、且その旨登記の為されていること、而かも右換地予定地の指定について被告が換地予定地の権利者としての通告並に協議を受けていないことは原告に於て明かに争わないところである。そうすると被告は右土地に対する所謂仮処分権利者と言うことができるが、右仮処分権利と言うのは所謂仮処分義務者に対する訴訟法上の権利であつて、旧特別都市計画法(これは土地区画整理法の施行と同時に廃止された。)都市計画法、並に同法によつて準用される旧耕地整理法(これも土地改良法の施行と同時に廃止された。)等に換地予定地の指定に際して予めかゝる仮処分権利者に通告し、協議を経なければならないことも、また同権利者にその指定を通知しなければならないことも定めた規定はない。従つて被告の主張するように被告に対する通告並に被告との協議を経ずに換地予定地の指定が行われ且被告に対するその指定通知がなされなかつても、これを以つて直ちに右換地予定が無効と言うことはできない。

また前認定の仮処分決定がなされているに拘らず換地予定地の指定がなされたからと言つてその指定が無効とは言えない。けだし仮処分は債権者の債務者に対する私法上の権利を保全するためのもので、それは本来当該債権者と債務者とを拘束するに過ぎないものでときに第三者にその効力を及ぼすかに見える場合のあるのは右当事者を拘束する効力の反射的効果に過ぎないものと解すべきであるのみならず、土地の区画整理と言う公益上の目的から公法上の権利に基いて為される行政庁の換地処分に迄その効力を及ぼすものではない、むしろ仮処分こそ行政庁の行う換地処分の効力に拘束されるものと解すべきであるからである即ち前認定の仮処分は東区徳井町二丁目四十一番地の二宅地十四坪二合八勺についてなされたものであつて、右宅地も原告の所有土地について為された換地予定地の指定と同時に何処かに換地予定地の指定がなされたか或は換地を交付せず金銭補償による清算方法が計画されている筈で、若し換地予定地の指定がなされているとすれば右仮処分の効力は新たに換地予定地に指定された土地に移行しているものであり、金銭補償による計画のなされているのであれば右土地の所有権に代る補償請求権に対してその効力を有するに到るものとなるものである。

そうすれば原告は右換地予定地の指定を受けた翌日以降旧特別都市計画法並に土地区画整理法に基いて右指定地に対して従前の土地に対して有していた所有権と同一内容の使用並に収益権を有するわけであるから、これに対抗し得る何等の権利をも主張立証しない被告は前認定の換地予定地の指定を受けた土地上の建物を収去してその土地を原告に明渡さねばならないことは当然であり、且右土地の地代相当額が一ケ月金二千円であることは被告に於て明かに争わないところであるから被告は原告に対し昭和二十九年七月五日以降右土地明渡済迄一ケ月金二千円の割合の損害金を支払わねばならないことも明かである。

よつて原告の本訴請求はこれを正当として認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、仮執行の宣言につき同法第百九十六条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 喜多勝)

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